翌日の車検に備えて光軸調整を行う。
W3のヘッドライト中心高さを測ると950mmなので、1mくらい壁から離れて光軸が水平よりも約1cmまで下がらない程度に下げる。つまり光軸の勾配が-10%以内に収めれば基準内。少し左に寄っているかな。以前の車検時の記事を読み返してもやはり左に寄っているということでステーをよじって右に寄せている。これは恒久対策ではないから、時間の経過でまた元に戻ったのだろう。
さて、翌日。朝からミッションオイルとクラッチオイルを交換し、各ボルトナットの締め付け状態を確認し、タイヤ空気圧をチェックし、近所でエンジン始動確認していたら、なんとタンクからガソリンがポタポタ。これは危ない!すぐにエンジンを停止し、ポタポタした分を拭き取りつつ、タンクの漏れ箇所を特定しウェスで拭き取ると、状態が悪化して、ピューって感じでガソリンが出てくる。あーこれ、半田付けして止めた1mm弱の穴。半田が付いていなかったのか。しかしなんということ。なんで今頃!
こんな状態でオロオロしていても仕方が無いので、タンクを抱きかかえるような姿勢で上り勾配の道を押して自宅まで戻る。めっちゃしんどい。結構上りだし。息が上がる・・・。
そして帰宅し、ダメ元でエポキシパテを練ってガソリンの漏れる付近に強引に塗りつけると、なんと止血!漏れが完全に止まった。しばらくパテを押さえつけ、硬化が進んだ時点で手を離すと、大丈夫漏れは止まったまま。そしてしばらくしてエンジンを始動し振動を与えても大丈夫そう。
一応、近所を試走。状態をみながら慎重に走ったが大丈夫そう。
とうことで、とりあえず応急処置済で、いざ車検へ。いろんな工具や道具を袋に入れて万全を期して京都陸運支局へ。1号線で行くと東山トンネルがあって、途中停止したらほんと狭い路側帯で怖い目にあう(経験あり)ので、こういうときは三条経由で行く。結果として道中問題なく、順調に陸運支局まで到着した。13:00受け付け開始、14:30検査開始だけど、何かあったら応急処置に時間が必要だから余裕を持って12時頃到着。何も無かったので早すぎた笑。とまあここまでは良かった。
到着直後。
5月は車検は空いているらしい。3月4月が一番混むとか。年度の変わり目だからいろいろあるのでしょう。
時間に余裕があるので、ちょっと休憩。汗ばむくらいの陽気だ。
そして昼からユーザー車検受付を済ませて、さあ光軸の確認をするために、この写真後方に映っている建物のシャッターのところまで移動しようと思ってキックを踏むと、カキン!!っと嫌な音があった後に、圧縮無くなった!!
これは何? 初めての感触。キックしてもシュポシュポと音がするだけで上死点の感触が全くない。まるでデコンプしたみたいな感触だ。当然、エンジンはかからない。あーーー、これはダメだな。応急処置で治るようなシロモノではない。バルブがどこかで止まってしまって圧縮がかからないわけだ。でもキックは普通にできる。キックができるならバルブは動いているはずなのに。
あるいは、バルブシートに何か異物でも噛んだのかな。よく分からないけど、バルブ動作を手持ちの工具でコントロールすることはできないのでこれは断念。少し分解してチェックすることができても直せないので、分解する気にもなれない。
JAFを呼ぶときは#8139(シャープ、ハイサンキュー)。これだけは何故か忘れない笑。
待つこと20分少しで、やってきてくれました。搬送用トラック。
ありがたいことです。
私好みのポルシェの横で、悲しげなW3。トラックから荷台が斜めに下りてきてスロープになって簡単にバイクを乗せられる。
ちょうど時刻は14時前。これから本番が始まるという時間なのに、私はW3とともにトラックへ。
自宅近くまで搬送してもらった。
私はJAF会員なので、15kmまでは無料。今回は無料の範囲内だった。
ドライバーのおじさんいわくバイクの搬送で一番多いのはチューブタイヤのパンク、その次がポンプの不具合だとか。
それにしても、車検場からJAFに運ばれて帰宅するとは思わなかった。バイク歴30数年でもちろん初めてのこと。
天気の良い今日、車検を通して夜は祝杯かなと思っていたけど、なんてこった。
早速、圧縮を測定する。
まあ、わかりきったことだけど。左シリンダーは、少しある。でもこんなんダメ。
右シリンダーは、ゼロ!
完全に抜けている。何だこれ。
タペットカバーを外して内部をチェック。
すると、吸気側が全く動いていない。排気側は正常動作。
でも、キックできるのに、ロッカーアームが動かないってどういうこと???
プッシュロッドがロッカーアームから外れたのかなと思ったけど、動画を見ての通りロッカーアームが少しだけ振動しているのでこれは外れてないなと。タペットアジャスターロックナットもちゃんと締まっている。ということは、プッシュロッドとロッカーアームが撓んでいるということだろう。
このタペットアジャスター、触手ではがたつきなし。バルブがシートに落ち着いていなくて圧縮が漏れているとすれば、むしろこの部分に遊間ができるタイミングが増えるはずだけど、そうでもない。
ともかく、見たところ吸気側のバルブが2本とも全然動かないということは確かだ。
タペットカバーを外して、いよいよ内部へ。
プッシュロッドだけにしてキックを踏むと、4本とも正常に動作する。ますます疑問は深まる。
で、ロッドを点検すると・・・
ロッドに擦れた跡が残っている。
ロッカーケースのこんなところに傷跡が。左右シリンダーの両方にある。ロッドが撓んで擦れたのだろう。
バルブが固着していそうなので、オイル潤滑が不良だったのかと疑う。
バルブにはロッカー側からオイルが圧送されるので、この辺りを重点的に点検するも異常なし。排気側も吸気側もオイル流路には問題ないし、部品にオイル不足による焼けも見当たらない。オイルに起因するものではなさそう。
一応、ロッカーアームとシャフトの遊間をチェックしてみる。
ガタはなく、とても良いはめ合い状態と思う。オイルが不足していたらこの辺りがかじったりしているはず。
ヘッドを開けて原因を探ることに。
お出ましの燃焼室。
右も左もカーボンがたまっている・・・。バルブは全部閉じているようだけど。
前回ここをあけたときにドレミコレクションのリプロ製品のガスケットを使ったのだが、こんな風にガスケットの一部がヘッドに転写されるようにひっついている。純正のガスケットでこうなってたっけなー。
お、右側の吸気バルブの上下に少し打痕が。これはシリンダーと干渉した跡かな。
左シリンダーの下側(吸気側)に打痕が。
あー、これは干渉だな。出っ張ったままの吸気バルブをピストンが押し戻したってことか。
右シリンダにも、そう思えば少し痕跡が。左ほどではないけど。
圧縮が抜けていることを確認するために、ヤマルーブを燃焼室に噴射すると、やはり、溜まらない。
完全にバルブがシートに密着していないとことだ。
特に右側がひどい。圧縮がゼロだった方だ。
バルブスプリングコンプレッサーでバルブの取り外しを試みる。
バルブスプリングを取り外し、バルブをフリーの状態にしてハンマーでほんと軽く小突いてみると、排気側と吸気側で全然音が違う。吸気側は二本とも甲高いし、びくともしない。完全に固着している感じ。排気側はすぐにバルブがちょこっと動く。
これは難儀だな。バルブ外れないかも??
で、少し休憩し、ネットでいろいろ見てみると、こういう場合はガイドの打ち替えが必須だから、ガイドに傷を与えることをいとわずにバルブを突くようだ。そしてしばし思案し、あらためてガレージに向かう。
意を決してヤマルーブを噴射して少しでもカーボンを溶かしつつ、少しづつ力を入れながらバルブを叩くと、圧縮がほんのわずかに残っていた左側はあっさりとバルブが動き、手でも抜ける状態に。右側もそれほど力をかけずに動き出し、ヤマルーブを加えながら手で動かしていくうちにスポッと動き出した。
なんと、カーボンによる固着、が一次原因。異物が噛みこんだり、油不足でかじったり、というものではない。そんなんでエンジンブローするんや!びっくり。
お決まりのバルブ抜き取り行程。こういうところに少しでもバリがあればバルブガイドを通過しないので丁寧にさらっておく。
抜き出したる吸気側バルブ2本。見た感じ、バルブステムには傷入りはない。つるんとしている。金属粉の噛みこみだったら傷が入るはずだけど、そういうものはない。やはり単純にカーボンによる固着か。しかしそんなクリアランスあるのかな、バルブとガイドの間に。
サービスマニュアル(SM3)を参照すると、バルブとガイドの間のがたつきの限度は0.1mmのようだ。
早速、ダイヤルゲージで測定してみる。
バルブをガイドに通して左右に揺すってみると、この位置から・・・
この位置までバルブが移動した。
目盛りから、約0.19mmくらいガタついている。限度の2倍近い。
これは吸気の左側。右側はまだましだったけど。排気側も念のため触手で確認すると同じか少し少ないくらいのガタ。これもダメかな。
実は前回ヘッドを自分で直したときに、少しガタつくかなあとは感じつつも、特に計測せずそのまま組み上げた記憶がある。でもそれからずっと普通に動いていたのに、なぜ今更??というのが解せない。
ヤマルーブにバルブを漬け込む。
このケミカル、カーボンの洗浄にはとても有効。このまましばらく放置しておく。
2時間ほど経過してバルブを取り出すと、この通り綺麗なものだ。シートとの当たり面も綺麗に出ている。
しかし、ボール盤にくわえさせて芯ブレを確認すると、排気側にはブレはなかったものの吸気側は明らかにNG。やはりバルブとピストンが干渉したためか、バルブが歪んでいる。2本ともだ。これらは残念だけど再利用不可だな。
とりあえず、仮ナンバーは役所に返却しないと。
仮ナンバーとって、車検取らずに終わるのは、これが初めて。この仮ナンバーは5日間有効だけど、今回のような重整備が必要となればその期間内にもう一度車検受験が無理なのは明らか。全くもって不本意だけど、あきらめるしかない。
さてどうしたものか、といろいろネットで調べてみた。
バルブガイドの打ち替えが必要だから、これは内燃機専門業者にお願いするしかない。
どこに依頼するのが良いのかなと思いながら、過去の記憶を手繰り寄せたり。
で、ある業者のHPが目に留まった。ヘッド修理の実績をとても分かりやすく写真で説明していたので、ここ良いなと。
そしてメールで症状を伝えやり取りし、今回のヘッド修理に必要なことと費用・期間におおよそ見通しを得ることができた。
バルブも最近ではリプロダクト製品があるらしい。
また、ステムシールも最近の車用のものをつかえるようバルブガイドを削り出すとか。へえーー。
ちょっとお値段は張るものの、今回のトラブルがなくてもいずれガイドの打ち替えは必要だったのかもしれないし、まあしょうがないと思うしかない。
今回の現象解明のため実はまだ記載していないことがある。
実は、W3のタンクに入っていたガソリンだ。
新たにガソリンスタンドから入れたものは7リットル。これに4~5リットルほど、古くなったガソリンが混じっている。エンジン起動確認の時に使っていたガソリンをそのまま流用したのだ。古いガソリンはよろしくないと分かっていたものの、高速や過酷な使い方しなければ問題ないだろうと。
吸気側バルブの2本ともが固着したのだから、両方のバルブに共通することが原因だろう。それはガソリンかオイルだ。でもオイルは今回交換しているし、いつもより大分多めに投入してオイルライン上に残っているオイルとエンジン内で混ぜさせてから少し抜き取るということをしたので特に原因と思われる点はない。ということはガソリンか。バルブとバルブガイドの限度値を超えた隙間にカーボンが蓄積し、古いガソリンがその洗浄をすることができずに、むしろその蓄積を助長したのではないか。
確かに点火プラグのカーボンの付着がとても多かった。ガイシまで真っ黒。これまではガイシは茶色くらいだった。
それともうひとつ。実はタンクの錆が少し再発していたので、ガソリンに浸かっていない部分の一部に花咲かGを塗布したていたのだ。これはほんと邪道なんだが、まあ少しだからとつい。で、その液体がガソリンとともに燃えて異常にカーボンを蓄積させたのか?でも量がたかがしれているしな。
それにしても、にわかには信じがたい。普通に動いていたエンジンを約1時間停止させただけなのに、バルブを固着させてしまうほどカーボンが強固な接着剤のような機能を果たすのだろうか。古いガソリンにはそういう物質を生成させる性質があるのだろうか。ネットでは、石油業界では「ガソリンは生もの」と呼ばれている、とある。腐ったガソリンは燃やすべからず、か。
いずれにせよ、今のタンク内のガソリンは当然廃棄処分。キャブも洗浄しておこう。
修理の納期は約4週間。車検は6月か7月だな。
ロッカーケースの内部ではどのような状態になっていたのか、改めて検証してみた。
もう一度、プッシュロッド。
写真の左から順に、
左シリンダー 吸気側 排気側 右シリンダー 排気側 吸気側
のプッシュロッドである。
排気側のロッドの方が傷が長い。これは、排気側が正常に動作していたものの、吸気側のロッドの変形のあおりを食らってしまったということだろう。つまりロッドの本来の往復運動はできていたから傷が長いのかと。
一方、右シリンダー吸気側(一番右)はロッカーが動かないのでこのロッド自体の動きも相当拘束されていたはず。だから傷の長さも短い。逆に一番撓んでいたはずだ。左シリンダー吸気側(一番左)は排気側ほどのではないが多少往復運動していた形跡がある。
ロッカーケースのこの場所に二つ、吸気側と排気側の両方とも擦れた跡が残っていた。これは右シリンダー。左側が吸気、右側が排気。プッシュロッドが撓んでここと擦れたのだろう。
さて、このロッド。平面で転がしてみたら、やはり歪みが生じてしまっていた。サービスマニュアルによると、歪みがあれば中空シャフトなので木ハンマーで修正を、とある。歪みが多い場合は交換となるが、私はこの部品の予備は持っていない。これを歪ませるとは思ってもみなかった・・・。えらいことになってしまったなあ。今、ヤフオク見たらもちろん中古4本で5千円!
痛い出費が重なるなあ。
カーボンで固着していたバルブ。ということなのだが、ちょっと待った。
ハンマーで吸気バルブの頭をたたいたときの音は、明らかに金属の締まった音。ということはカーボンによって固着していたのでは無くて、曲がったバルブがガイドに食い込んで嵌まり込んでいたのではないか。金属同士がいわば食いついた格好だったらそういう音が鳴るのも納得がいく。ピストンヘッドに残っていたバルブとの衝突跡についても説明が付く。カーボンで固着したくらいでそんな強度は出ないだろう。
でも最初はカーボンで固着してたのかもしれない。車検場に停車し、エンジンを切ったとき。
このとき、右側か左側かは分からないがどちらかの吸気バルブがリフトした状態で止まった。
エンジンが暖かい時は問題なかったものの、1時間の停車で冷えて汚れが固形化してしまった。
そのためキックしたら本来スプリングの力で戻るべき吸気バルブが戻らず、ピストンが当たってしまい、バルブガイドに食い込んだ。そして、もう片方の吸気バルブも戻りきれずにピストンと当たってしまい、同様に食い込んだ。
再起動しようとした一発目のキックでエンジンから金属音が生じ、それ以降そういった音は全く鳴っていないので、キック一発で両方のバルブが逝ってしまったということだろう。
大元の原因はバルブの固着だろうけど、それにピストンとの衝突があってトドメを刺されたということ。
そして大元の原因である固着の原因は、劣化したガソリンの吸気によるカーボン汚れの過度の蓄積、かな。
正直いうと、まだ本当のところは分からないのだが、そう思うほかに原因が考えにくいなあと。
このページをご覧になった方で、もし他の見方があればぜひともご教示下さい。
まつ (水曜日, 13 5月 2020 07:23)
uraraさん
時とお金でなんとかなる、ので良かったと思うようにしてます。
苦し紛れですが。
その40年前の出来事は、今のsですか?それにしても40年前!
ヘッドが完調となったら、今度は腰下が・・・とかならねば良いのですが、いろいろ気になり出してます。
まつ (水曜日, 13 5月 2020 07:18)
レヤンさん
古いガソリンがとどめを刺したのかもしれませんが、そもそも吸気バルブに付着していた古いカーボンやガソリンのワニス分が悪さしたのではないかと思うに至っています。W3もZ1もフロートバルブが固着してましたし。バルブスティックという現象らしいですが、これは自動車整備業界では普通に勉強するような?内容とか。
放置エンジンを起動する際には、バルブをクリーンにするための添加剤を新品ガソリンに入れておく、ということが教訓ですね。50年熟成したガソリン、って凄いですね。まだ揮発成分残ってるんでしょうか笑
urara(浦) (日曜日, 10 5月 2020 22:23)
詳細なレポートありがとうございます、状況はつかめました。
時とカネが痛いでしょうが・・・ ♪負けないで♪
40年前の内地ツーで、バルブとガイドが固着し混合燃料にして
フェリー港まで辿りついたこと思い出しました。原因は薄い
燃料&灼熱温度下で渋滞走行したことによるオーバーヒートで
した。
腕のいい内燃機屋さんなら心配ないでしょう!復活祈ってます(^◇^)
レヤン (日曜日, 10 5月 2020 21:18)
原因がほぼ 特定出来て、良かったですね。
原因は明石菌じゃ 無いですからね(笑)。
タンクの錆びとり材 が 悪さしたのでは??
古いガソリンが犯人なんでしょうかね?
我が家にも、カキッ って金属音がして 圧縮の抜けたモンキーのエンジンが有ります。 古いガソリンなら これから気を付けなくては成りませんね。
50年ものの 有鉛ガソリン、タンクの中に入ってますけど・・・ 原因追求に貸し出しますよ(笑)